テロの黒幕としての「西郷」も西郷

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本編用のFBにUPしたものです。
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ツィーターを見ていて、坂本龍馬暗殺の黒幕は西郷ではないという話がでていた。確かに、現在の研究の到達点からすれば、それは正しいだろう。そもそも、竜馬暗殺の日に、薩摩の三トップは京都にいない。かれらなしで竜馬暗殺を促す行動を行うということは困難だとおもわれる。それは、それでよい。

しかし、だからといって西郷はこうした暗殺とかいった現在から見て非難されるような行動をしない正義の人だというのなら、それは別の話だ。西郷はほぼ確実に罪のない人物の殺害を命じている。実際に存在したのか疑問が出されている坂本の船中八策より先に、それより優れた内容の改革案を島津久光、徳川慶喜や松平慶永らに提出した、ある面で坂本のモデルであった(だから存在を隠されてきた可能性もある)とされる上田藩・赤松小三郎の暗殺だ。厳密な史料批判で有名な青山忠正教授なども、ほぼ西郷の命令であることは明らかであることを公言している。赤松の門弟であった中村半次郎に殺害を命じるのだから、エグい。
薩摩の軍事顧問であったため、赤松が帰藩すれば薩摩の軍事情報が流れること、幕府側の軍事力を高める可能性を嫌い、口封じをしたともみられる。さらにいえば、赤松は薩摩の三トップよりも、島津久光に近かったことから、薩摩藩内部のヘゲモニー争いとの関わりも考えられる。
この行為をどう評価するか、その是非は別として、(それが幕末のリアル)、こうした行為を命令する凄味をもった人物であったことを押さえないと、リアリストとして「悪」にも手を染める正しい西郷像は描けない。親しい仲間や友人・恩人であってもやむを得ないときには命を奪い、仲間に盗賊行為を命じ、江戸の町を焼き払うことも辞せず、さらには会津藩などを人身御供とできる人物。他方で、ひょっとしたら自分の命も道具としてさしだすこともいとわない人物、だからこそ庄内藩など戦争で敗れた藩などから尊敬を受ける人物であったように思える。
こうした西郷の「悪」や「闇」を「西郷どん」で描けるか。結局は正義の人、偉人伝に終始するのだろうな。そうして、幕末から維新にかけてのイメージが作られていく・・・。
なお、赤松についての研究もすすんできた。上記の内容は拓殖大の関良基氏の労作も参考にした。たしかに赤松は優れた人物であったかもしれないが、赤松への思い入れの強さから、時代や状況を無視した贔屓の引き倒しになっていないか。とくに「人民」とはだれか?冷静な分析が必要と思う。

注:数日前、何の気なしに見たNHKーBSの再放送で赤松小三郎暗殺をとりあげていた。リアルタイムで視聴しないで、上記の文章を書いていたことになる。下の番組紹介をみて、大河の提灯番組と判断し見落としたのかも知れない。
番組では赤松小三郎の暗殺を薩摩の仕業としていたし、赤松の業績が紹介され前出・関教授のインタビューもあった。「あり得たもう一つの近代」とのコメントもあった。責任が曖昧で幕末史のリアルというから見れば不十分で唐突の感は否めなかったが、知られざる思想家赤松小三郎が紹介されたことも含め、評価すべきと考える。

NHKが、大河や歴史番組でこうしたリアルを今後どう扱うか?気になるところである。西郷らが負うべき暴力とテロの責任を含めて、単なる偉人伝ではないリアルな幕末の歴史・人物像が描かれることが望まれる。
 この番組は、NHKオンデマンドで見ることが可能です。
 また、この番組に言及された関教授のブログへのリンクもつけておきます。

***番組紹介より「引用」***
英雄たちの選択新春スペシャル
「幕末ヒーロー列伝 これが薩摩藩の底力だ!」
 
日本がかつてない危機に直面した幕末、西郷隆盛や大久保利通らの英雄が薩摩藩から次々と登場し、維新の原動力となった。変革の時代をリードした薩摩藩の底力を徹底解剖!

 260年続いた江戸幕府を打倒し、新時代を切り開く原動力となったのが、日本の南端にある藩「薩摩藩」。幕末、薩摩藩は西郷隆盛や大久保利通、小松帯刀ら傑出したヒーローを次々と生み出した。日本が進むべき将来の明確なビジョンを掲げ、欧米列強とも互角に渡り合い、歴史を変えていった薩摩の英雄たち。なぜ、そんなことができたのか?「薩摩藩の底力」を徹底解剖し、混迷の時代を生きぬく知恵を磯田道史がゲストとともに探る。
【司会】磯田道史,渡邊佐和子,【出演】中野信子,岩下哲典,桐野作人,瀧本哲史,【語り】松重豊