三・一運動における「独立宣言書」

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今日(20/6/11)の東北アジア史のオンライン授業がおわりました。本日の授業のなかで、興味深く聞いた内容は三・一運動にさいしてだされた「独立宣言」文の格調高さです。
李朝末期の歴史をまとめていて、やるせなく悲しい気持ちにとらわれていたなか、独立宣言書の内容に目をみはりました。

授業後の感想・意見欄の一部を引用したあと、独立宣言書の口語訳・現代語訳を二種類引用しておきます。(<>で区切った文は歴史学研究会編「世界史史料」の中略部です)

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<感想・意見欄>

ありがとうございました。
恥ずかしながら、三・一運動の独立宣言文、はじめてじっくりと読みました。19世紀段階とくに衛正斥邪思想中心の「かなしい」状態に対し、この文書の質の高さ、国際性や時代性を感じます。こうした思想が19世紀段階で広がっていたらと妄想したりしました。この文章には、「5000年の歴史」という辺りを除いては「小中華」的な意識が見えないのですが、それは日本や世界にアピールするための配慮とみるべきでしょうか、儒者が参加していないメンバーとのかかわりなのでしょうか。
また起草者のなかに、朝鮮(韓国)の政治文化をリードし、ある意味、イデオロギー的には以後にも影響を与え続けたとおもわれる衛正斥邪派の姿(私の勝手な思い込みかも知れませんが)が見えないのですが、かれらはどうしていたのでしょうか。また独立宣言「文」をどのように見たのでしょうか。義兵運動で壊滅、ないし国外での闘争に移行したのでしょうか。前にレポートした任文恒の父親のように隠遁と儒教的行事に沈潜していたのでしょうか。
(以下、略)

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wikisourceによる口語訳

宣 言 書

我らはここに我朝鮮が独立国であることと朝鮮人が自主民であることを宣言する。これをもって世界万国に告げ人類平等の大義を克明にし、これをもって子孫万代に教え民族自存の正当な権利を永久に保有させる。半万年歴史の権威によってこれを宣言し、二千万民衆の誠忠を合わせてこれを布明し、民族の恒久一の如き自由発展のためにこれを主張し、人類的良心の発露に基因する世界改造の大機運に順応併進するためにこれを提起するものである。これは天の明命、時代の大勢、全人類共存同生権の正当な発動であり、天下何者といえどもこれを阻止抑制することはできない。

旧時代の遺物としての侵略主義、強権主義の犠牲となり有史以来数千年で初めて異民族に束縛される痛苦を嘗めてからここに十年が過ぎた。我が生存権が剥喪されたのはどれほどか、心霊上発展が障礙されたのはどれほどか、民族的尊栄が毀損されたのはどれほどか。新鋭と独創によって世界文化の大潮流に寄与、補裨できる機縁をわれらはどれほど遺失したであろうか。

<噫旧来の抑欝を宣暢しようとすれば、時下の苦痛を擺脱しようとすれば、将来の脅威を芟除しようとすれば、民族的良心と国家的廉義の圧縮銷残を興奮伸張しようとすれば、各個人格の正当な発達を遂げようとすれば、可憐なる子弟に苦恥的財産を遺与しないようにするならば、子々孫々の永久完全なる慶福を導迎しようとすれば、最大急務は民族的独立を確実にすることである。二千万各個人が方寸の刃を懐にし、人類の通性と時代の良心が正義の軍と人道の干戈とで護援する今日、我が進んで勝ち取るのにどんな強さが挫かせられるだろうか、退いて作すのに何の志が展するだろうか。
丙子修好條規以来時々種々の金石盟約を食んだとして、日本の信の無さを罪しようとするものではない。学者は講壇で、政治家は実際で我が祖宗世業を植民地視し、我が文化民族を土昧人遇し、ただ征服者の快を貪るだけで、我が久遠の社会基礎と卓越する民族心理を無視するものとして、日本の義の少なさを責めようとするものではない。自己を策励することに急ぐ我は他を怨尤する暇はない。現在を綢繆することに急ぐ我は宿昔を懲弁する暇はない。今日我の所任はただ自己の建設にあるだけで、決して他を破壊することにあるのではない。厳粛な良心の命令によって自家の新運命を開拓しようとするものであり、決して旧怨や一時的感情によって他を嫉逐排斥するものではない。旧思想、旧勢力に覇靡されている日本為政者の功名的犠牲である不自然で不合理な錯誤状態を改善匡正して、自然で合理な政経の大原に帰還させようとするものである。>

当初民族的要求に出されない両国併合の結果が、畢竟姑息的威圧と差別的不平と統計数字上虚飾の下で利害相反する両民族間に永遠に和同することのできない怨溝を去益深造させた今来実積をみよ。勇明果敢をもって旧誤を廓正し真正な理解と同情とを基本とする友好的新局面を打開することが、彼と我が間の遠禍召福の近道であることを明知すべきではないだろうか。二千万含憤蓄怨の民を威力で拘束することは東洋の永久の平和を保障する理由にならないだけでなく、これによって東洋安危の主軸としての四億万中国人の日本に対する危懼と猜疑を濃厚にし、その結果として東洋全局の共倒同亡の悲運を招致することは明らかである。今日我の朝鮮独立は朝鮮人に正当な生栄を遂げさせると同時に、日本を邪路から出て東洋支持者としての重責を全うさせ、中国に夢にも逃れられない不安恐怖から脱出させ、東洋平和に重要なる一部をなす世界平和、人類幸福に必要な階段とさせるものである。これがどうして区々たる感情上の問題なのであろうか。

<ああ新天地は眼前に展開された。威力の時代は去って道義の時代が来た。過去全世紀に錬磨長養させられた人道的精神は、今や新文明の曙光を人類の歴史に投射し始めた。新春は世界に来て万物の回蘇を催促しつつある。凍氷寒雪に呼吸を閉蟄したのも一時の勢いとすれば和風暖陽の気脈を振舒するのも一時の勢いであり、天地の復運に際し世界の変潮に乗じた我はなんらの躊躇なく、なんら忌憚することもない。我に固有の自由権を護全し生旺の楽を飽享し、我に自足の独創力を発揮し春満てる大界に民族的精華を結紐すべきである。>

我らはここに奮起した。良心は我と同存し、真理は我と併進する。老若男女は陰欝な古巣から活発に起来して、万彙群象とともに欣快な復活を成し遂げる。千百世祖霊は我らを陰佑し、全世界気運は我らを外護する。着手はすなわち成功であり、前頭の光明に驀進するのみである。

公 約 三 章

一、今日我らのこの行動は正義、人道、生存、尊栄のための民族的要求であり、自由的精神を発揮するものであり、決して排他的感情に逸走してはならない

<一、最後の一人まで、最後の一時まで民族の正当な意思を快く発表せよ
一、一切の行動は秩序を最も尊重し、我の主張と態度をあくまで光明正大とすること>

朝鮮建国四千二百五十二年三月一日 朝鮮民族代表
孫秉熙   吉善宙   李弼柱   白龍城   金完圭
金秉祚   金昌俊   權東鎭   權秉悳   羅龍煥
羅仁協   梁甸伯   梁滿默   劉如大   李甲成
李明龍   李昇薫   李鍾勳   李鍾一   林禮煥
朴準承   朴熙道   朴東完   申洪植   申錫九
呉世昌   呉華英   鄭春洙   崔聖模   崔 麟
韓龍雲   洪秉箕   洪基兆 >

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3・1朝鮮独立運動100周年キャンペーンによる現代語訳

宣言書

わたしたちは、わたしたちの国である朝鮮国が独立国であること、また朝鮮人が自由な民であることを宣言する。このことを世界の人びとに伝え、人類が平等であるということの大切さを明らかにし、後々までこのことを教え、民族が自分たちで自分のことを決めていくという当たり前の権利を持ち続けようとする。
5000年の歴史を持つわたしたちは、このことを宣言し、2000万人の一人ひとりがこころを一つにして、これから永遠に続いていくであろう、わたしたち民族の自由な発展のために、そのことを訴える。そのことは、いま、世界の人びとが、正しいと考えていることに向けて世の中を変えようとしている動きのなかで、いっしょにそれを進めるための訴えでもある。
このことは、天の命令であり、時代の動きにしたがうものである。また、すべての人類がともに生きていく権利のための活動でもある。たとえ神であっても、これをやめさせることはできない。
わたしたち朝鮮人は、もう遅れた思想となっていたはずの侵略主義や強権主義の犠牲となって、初めて異民族の支配を受けることとなった。自由が認められない苦しみを味わい、10年が過ぎた。支配者たちはわたしたちの生きる権利をさまざまな形で奪った。そのことは、わたしたちのこころを苦しめ、文化や芸術の発展をたいへん妨げた。民族として誇りに思い大切にしていたこと、栄えある輝きを徹底して破壊し、痛めつけた。そのようななかで、わたしたちは世界の文化に貢献することもできないようになってしまった。

<これまで押さえつけられて表に出せなかったこの思いを世界の人びとに知らせ、現在の苦しみから脱して、これからの危険や恐れを取り除くためには、押しつぶされて消えてしまった、民族として大切にして来た心と、国家としての正しいあり方を再びふるい起こし、一人ひとりがそれぞれ人間として正しく成長していかなければならない。
次世代を担う若者に、いまの状況をそのままとしていくことはできないものであり、わたしたちの子どもや孫たちが幸せに暮らせるようにするためには、まず、民族の独立をしっかりとしたものにしなければならない。2000万人が固い決意を相手と闘う道具とし、人類がみな正しいと考え大切にしていること、そして、時代を進めようとするこころをもって正義の軍隊とし、人道を武器として、身を守り、進んでいけば、強大な権力に負けることはないし、どんな難しい目標であってもなしとげられないわけはない。
日本は、朝鮮との開国の条約を丙子年・1876年に結び、その後も様々な条約を結んだが、〔朝鮮を自主独立の国にするという約束は守られず〕そこに書かれた約束を破ってきた。
しかし、そのことをわたしたちは、いま非難しようとは思わない。日本の学者たちは学校の授業で、政治家は会議や交渉の際に、わたしたちが先祖代々受け継ぎ行なってきた仕事や生活を遅れたものとみなして、わたしたちのことを、文化を持たない民族のように扱おうとしている。彼ら日本人は征服者の位置にいることを楽しみ喜んでいる。
わたしたちは、わたしたちが作り上げてきた社会の基礎と、引き継いできた民族の大切な歴史や文化の財産とを、彼ら日本人が馬鹿にして見下しているからといって、そのことを責めようとはしない。わたしたちは、自分たち自身をはげまし、立派にしていこうとしていて、そのことを急いでいるので、ほかの人のことをあれこれ恨む暇はない。いまこの時を大切にして急いでいるわたしたちは、かつての過ちをあれこれ問題にして批判する暇はない。
いま、わたしたちが行なわなければならないのは、よりよい自分を作り上げていくことだけである。他人を怖がらせたり、攻撃したりするのではなしに、自ら信じるところにしたがって、わたしたちは自分たち自身の新しい運命を切り開こうとするのである。決して昔の恨みや、一時的な感情で、ほかの人のことをねたんだり、追い出そうとしたりするわけではない。
古い考え方を持つ古い人びとが力を握って、そのもとで手柄を立てようとした日本の政治家たちのために、犠牲となってしまった、現在の不自然で道理にかなっていないあり方をもとにもどして、自然で合理的な政治のあり方にしようとするということである。>

もともと、日本と韓国(注・大韓帝国)との併合は、民族が望むものとして行なわれたわけではない。その結果、威圧的で、差別・不平等な政治が行なわれている。支配者はいいかげんなごまかしの統計数字を持ち出して自分たちが行なう支配が立派であるかのようにいっている。
しかしそれらのことは、二つの民族の間に深い溝を作ってしまい、互いに反発を強めて、仲良く付き合うことができないようにしている、というのが現在の状況である。きっぱりと、これまでの間違った政治をやめ、正しい理解と心の触れあいに基づいた、新しい友好の関係を作り出していくことが、わたしたちと彼らとの不幸な関係をなくし、幸せをつかむ近道であるということを、はっきり認めなければならない。

また、怒りと不満をもっている、2000万の人びとを、力でおどして押さえつけることでは、東アジアの永遠の平和は保証されないし、それどころか、東アジアを安定させる際に中心になるはずの中国人の間で、日本人への恐れや疑いをますます強めるであろう。

その結果、東アジアの国々は共倒れとなり、滅亡してしまうという悲しい運命をたどることになろう。いま、わが朝鮮を独立させることは、朝鮮人が当然、得られるはずの繁栄を得るというだけではなく、そうしてはならないはずの政治を行ない、道義を見失った日本を正しい道に戻して、東アジアをささえるために役割を果たさせようとするものであり、同時に、そのことで中国が感じている不安や恐怖をなくさせようとするためのものである。つまり、朝鮮の独立はつまらない感情の問題として求めているわけではないのである。

<ああ、いま目の前には、新たな世界が開かれようとしている。武力をもって人びとを押さえつける時代はもう終わりである。過去のすべての歴史のなかで、磨かれ、大切に育てられてきた人間を大切にする精神は、まさに新しい文明の希望の光として、人類の歴史を照らすことになる。

新しい春が世界にめぐってきたのであり、すべてのものがよみがえるのである。酷く寒いなかで、息もせずに土の中に閉じこもるという時期もあるが、再び暖かな春風が、お互いをつなげていく時期がくることもある。いま、世の中は再び、そうした時代を開きつつある。

そのような世界の変化の動きに合わせて進んでいこうとしているわたしたちは、そうであるからこそ、ためらうことなく自由のための権利を守り、生きる楽しみを受け入れよう。そして、われわれがすでにもっている、知恵や工夫の力を発揮して、広い世界にわたしたちの優れた民族的な個性を花開かせよう。>

わたしたちはここに奮い立つ。良心はわれわれとともに進んでいる。老人も若者も男も女も、暗い気持ちを捨てて、この世の中に生きているすべてのものとともに、喜びを再びよみがえらせそう。

先祖たちの魂はわたしたちのことを密かに助けてくれているし、全世界の動きはわたしたちを外側で守っている。実行することはもうすでに成功なのである。わたしたちは、ただひたすら前に見える光に向かって、進むだけでよいのである。

公約三章

一、今日われわれのこの拳は、正義、人道、生存、身分が保障され、栄えていくための民族的要求、すなわち自由の精神を発揮するものであって、決して排他的感情にそれてはならない。

<一、最後の一人まで、最後の一刻まで、民族の正当なる意志をこころよく主張せよ。

一、一切の行動はもっとも秩序を尊重し、われわれの主張と態度をしてあくまで公明正大にせよ。>

朝鮮建国四千二百五十二年三月一日

朝鮮民族代表

<孫秉煕 吉全宙 李弼柱 白龍城 金完圭 金秉祚
金昌俊 權東鎮 權秉悳 羅龍煥 羅仁協 梁甸伯
梁漢默 劉如大 李甲成 李明龍 李昇薰 李鍾勳
李鍾一 林礼煥 朴準承 朴煕道 朴東完 申洪植
申錫九 呉世昌 呉華英 鄭春洙 崔聖模 崔麟
韓龍雲 洪秉箕 洪基兆>

現代語訳/3・1朝鮮独立運動100周年キャンペーン
※『週刊金曜日』第1221号(2019年2月22日)より転載。
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/444640

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